みなさまにとって『為替リスク』とはどのようなイメージでしょうか?
一ヶ月後支払いの外貨取引かも知れませんし、外貨で支払われる給与のことかも知れません。そこで本日は主に財務・経営全般に携わる方へ、『為替リスクの分類について』と言うテーマで広義の為替リスクの意味を深掘りしてまいります。
少しでも皆様の為替リスク管理・経営のお役に立てれば幸いです。
為替取引リスク
例えば外貨建ての契約、これは代表的な為替リスクと言えるでしょう。
契約日の為替レートと、決済日の為替レートは同一ではありません。したがって、決済日までの為替レートの不確実性が為替リスクです。これが一般に「為替取引リスク」と呼ばれています。
以下に為替レートの変動により、1千万円多く決済するケースを表に纏めてみました。
外貨建て契約 USD1Mの例 | ||
USD/JPY | 決済金額(JPY) | |
契約日 | 110.00 | 110,000,000 |
決済日 | 120.00 | 120,000,000 |
差 | +10.00 | +10,000,000 |
USD1Mの取引の決済レートが10円高くなると決済に必要な金額が1千万円増えることがお分かりになると思います。
なお決済金額が大きくなればなるほど、決済までの期間が長ければ長いほど、決済通貨が不安定であればあるほど、為替リスクは大きくなります。為替取引リスクを考える上で重要なことは、金額・期間・通貨の三要素を考慮して対策を講じるかどうか判断することです。
為替換算リスク
続いて、当座使う予定のない外貨預金について考えていきます。ここでもシンプルにUSD1Mで例を作成しました。期初と期末の為替レートが20円異なったために評価損が発生していることがお分かりになると思います。
外貨預金 USD1Mの例 | ||
USD/JPY | 評価額(JPY) | |
期初 | 110.00 | 110,000,000 |
期末 | 90.00 | 90,000,000 |
差 | ▲20.00 | ▲20,000,000 |
このように、外貨取引を行なっていないにも関わらず、評価損が発生することを、一般的に「為替換算リスク」と呼びます。
なお基本的に為替換算リスクの考え方は為替取引リスクと同様です。金額の大小・通貨の特徴を加味すること、それと今後の使用予定があるかないかに注目することが大切です。
為替経済性リスク
さて、最後に通貨高の場合に、輸出企業がどのような影響を受けるか見ていきます。ここではわかりやすく1台の車を1万米ドルで輸出する企業をA社として、為替レートの変動により、実質販売価格が20万円減少する例を見ていきます。
A社の自動車、実質販売価格の変化 1万米ドルの例 | ||
USD/JPY | 実質販売価格(JPY) | |
2021 | 111.00 | 1,100,000 |
2022 | 90.00 | 900,000 |
差 | ▲20.00 | ▲200,000 |
2021年度は自動車販売一台毎に110万円を受け取れていたのが、2020年度になると為替相場が円高に推移したため90万円しか受け取れませんでした。このままでは既存の利益率が守れないと判断したA社は10%の値上げに踏み切ったと仮定します。すると輸出価格は1.1万ドル、残念ながら価格競争力が失われるため、2021年と同様の販売台数を残すことは難しくなります。
このように通貨高を起因に競争力が失われるリスクのことを「為替経済性リスク」と呼びます。
損益分岐点を下回る水準まで通貨高が進んだ場合には、企業は完全に競争力を失うため、当地から撤退せざるを得ません。為替経済性リスクは経営に直接大きな影響を与えるリスクであることから、財務の方だけでなく、経営層も為替レートに高い関心を持っていることもうなづけます。
まとめ
それでは本日の纏めに入ります。為替リスクは大きく分けて3つ存在します。
- 為替取引リスク
- 為替換算リスク
- 為替経済性リスク
為替リスクと言われた時に、上記三種類に分けて報告を行うと社内でスムーズに問題が共有出来るはずです。一口に為替リスクと言っても、中身は違いますので、切り分けて考えるのが良いでしょう。