為替ヘッジコストの決定要因と企業のヘッジコスト対策

為替リスクヘッジには様々な手法がありますが、どんな手法を用いるかによって必要なヘッジコストは変わってきます。本記事では、為替予約を行う際のヘッジコストの決まり方や、企業が採用できるヘッジコスト抑制の手段などに付いて解説します。

 

為替ヘッジコストと通貨の短期金利差の関係

企業や個人が外国と取引を行ったり、外貨建て資産への投資を行ったりする際、為替相場の変動により差損が発生するリスクがあります。そのリスクを減少させるために行うのが為替リスクヘッジです。

為替リスクヘッジの手法としては、将来の一定期日や期間を定めて決済時の為替レートを前もって決めておく「為替予約」や、外国通貨を将来の一定時期に、行使価格を決めて売買する権利を取引する「通貨オプション」などがあります。

これらの手法を行使する際に掛かる費用が、為替ヘッジコストということになります。

為替予約を行う場合、一般的に為替ヘッジコストは円と外貨の金利差によって発生します。為替予約を行う際には、将来のある時期に外貨を円と交換する相手に対して、交換までの期間の金利差相当額を支払わなければなりません。この時対象となる通貨の短期金利と、円の短期金利との差によってヘッジコストが決まるわけです。以下に例示します。

 

現在、1USD=100円

米ドル1年の金利=2% 1年後の米ドル価値は1.02ドル

日本円1年の金利=0% 1年後の日本円の価値は100円

もし為替相場が動かなかった場合、これらは等しい価値でなければならない

100÷1.02=98.04

これが為替市場の一年後の先物レートとなる

※なお、正確には金利だけでなく、通貨Basisと呼ばれる通貨選好の度合いも考慮される

 

一方、取引する通貨の短期金利が日本円より低い場合、為替ヘッジを行うことによって逆に収益が増える場合もあり、これは為替ヘッジプレミアムと呼ばれます。例えばマイナス金利政策を採っていたユーロ圏との取引に関しては、為替ヘッジプレミアムが発生していた時期もあります。

一般的にはヘッジコストもヘッジプレミアムも、円と対象通貨の短期金利差が大きくなるほど増加することになります。

 

通貨の調達コスト上昇も為替ヘッジコストの増加要因に

基本的に為替ヘッジコストは、外貨の短期金利と円の短期金利の差で決まりますが、外貨の需要が高まったり、供給不足になったりして調達が困難になった場合は上乗せ金利(ベーシススワップ)が発生し、ヘッジコストの増加要因となることがあります。

たとえば、米国ではコロナ禍で落ち込んだ経済を下支えするために低金利政策を続けてきましたが、コロナ後の景気回復を受けて金利引き上げに舵を切ったため、超低金利政策が続く日本との短期金利差が拡大しました。米ドルと日本円との金利差拡大に加え、世界的な景気減速懸念やより高い金利を求める動きからドル需要が高まっています。これらに伴い米ドルの調達コストも上昇し、為替ヘッジコストの増加要因となっています。

最近では、ロシアのウクライナ侵攻など、世界的な有事も米ドル需要の高まりを後押しする形となりました。また、過去を遡ると、リーマンショック後に各国で実施されたレバレッジ規制など、金融面での規制が米ドルの供給不足を招いて、調達コスト上昇に繋がったこともあります。

 

企業の為替ヘッジコスト対策

ヘッジコストの増加を嫌って、外国との取引において為替リスクヘッジに積極的でない企業もあります。しかし、自国通貨が基軸通貨のドルである米国や、単一通貨のユーロで取引することが多い欧州の企業と違って、日本企業は為替リスクヘッジに敏感にならざるを得ません。

企業が為替ヘッジコストを抑えるために取れる対策として、手元資金に余裕がある場合は、早めに外貨に両替しておく、あるいは通貨オプションのようなデリバティブ取引を導入することで、リスクをコントロールする方法があります。

通貨オプションには、買う権利(コール)と売る権利(プット)があり、その権利自体を買うのか売るのかを決めることが出来ます。企業が権利を買う場合には銀行などの売り手にオプション料を支払い、売る場合にはオプション料を受け取る、という仕組みです。整理すると以下のようになります。

・買う権利(コール)の購入―オプション料を支払う

・買う権利(コール)の売却―オプション料を受け取る

・売る権利(プット)の購入―オプション料を支払う

・売る権利(プット)の売却―オプション料を受け取る

このオプションの売却を2倍、3倍にしてオプション料の受け取りを増やし、そのオプション料を成約レートに反映させるのがレシオ・フォワードです。当初見込んだとおりに為替相場が動けばそれだけ有利なレートで取引できる一方、相場が逆に振れた場合は不利なレートで権利を行使しなければならないリスクがあります。

一般的な為替予約と異なり、デリバティブを用いる手法は為替リスクヘッジの方法としては投機的な側面が強いため、導入を検討する際には専門家の助言に従うことを強くお勧めします。

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