先日は「為替リスクの分類について」と題して、「為替取引リスク」「為替換算リスク」「為替経済性リス」の3種類に為替リスクを分類し、それぞれのリスクや特徴について振り返りました。社内で為替リスクに関する議論を進める際に「為替リスク」と一言で片付けてしまうと議論がぼやけてしまいますので、上記3つの分類を使用するとクリアに議論を進めることが出来ると解説しました。
そこで本日は「為替リスクの分類」の続編として「為替リスクの計算に役立つ3つの変数」と言うテーマで為替リスクについて深掘りします。
一つ目は「期間のリスク」です。
期間のリスク
外貨建て取引は決済日までの為替レート変動により支払い金額が変動するため「為替取引リスク」に分類されます。企業は外貨建て取引に対して必ずしも対策を講じなければならないのでしょうか?以下3つの取引をご覧ください。契約金額は全て1億円です。
- 契約金額:1億円 決済日までの期間:1週間(リスク:小)
- 契約金額:1億円 決済日までの期間:1ヵ月(リスク:小〜中)
- 契約金額:1億円 決済日までの期間、1年間(リスク:中〜大)
決済日までの期間が1週間の為替リスクは大きくありません。なぜなら1週間で為替レートが大きく変わることは稀だからです。ところが、期間1年間の為替リスクはとても大きなものになります。なぜならば相場水準が大きく変わっていることが想定されるからです。
例えば日本企業が最も進出している中国を例に取ってみます。
JPY(日本円)/CNY(人民元)の1年間の高値安値の差を10年間(2008年-2017年)計測したところ、過去10年の内4年で高値安値の差が22%超となっていました。つまり最悪のケースですと、レート変動の影響で、1年後の外貨建て決済は、当初契約金額より22%多く支払う、若しくは当初契約金額より22%少なく受取る可能性があると言うことです。これは企業にとっても一大事ですよね。
従って決済日まで長期間の外貨取引については極力対策を考え、講じることが重要となります。また決済までの期間が長ければ長いほどに為替変動リスクが大きくなるわけですから、そもそも契約交渉の段階で契約金額に対して期間のリスクを上乗せしておいた方が良いです。本ケースでは、最低でも③について、ヘッジを検討した方が良いでしょう。
さて次に金額を変更してみていくことにします。リスクの大小を測る3つの変数の二つ目は「金額のリスク」です。
金額のリスク
- 契約金額:1億円 決済日までの期間:1年間(リスク:中〜大)
- 契約金額:10億円 決済日までの期間:1年間(リスク:大)
- 契約金額:100億円 決済日までの期間:1年間(リスク:特大)
上記設定に加えて、御社にとって不利な22%の相場変動が起こったと仮定します。
- 22百万円 の損失
- 2.2億円の損失
- 22億円の損失
いかがでしょうか?流石に22億円の損失は耐えきれませんよね?本業で儲けた利益をしっかりと確保するためにも金額の大きな外貨建て取引のヘッジが重要であることがお分かり頂けるのではないかと思います。
さて、最後の例を見て行きましょう。リスクの大小を測る3つの変数の三つ目は「通貨ペアに応じたリスク」です。
通貨ペアに応じたリスク
契約金額:1億円 決済日までの期間:1年間(リスク:中〜大)
契約金額:83万ユーロ 決済日までの期間:1年間(リスク:中〜大)
契約金額:100万ドル 決済日までの期間:1年間(リスク:中)
※1EUR=120JPY, 1USD=100JPY と仮定
契約通貨は異なりますが、契約金額は同一と考えてください。上記のケースにおいてリスクが大きいのは日本円建て&ユーロ建ての契約であり、ドル建て契約の相場変動リスクは相対的に小さいものとなります。
JPY(日本円)/CNY(人民元)ですと過去10年の内4年、22%を超える変動が発生したのは前述の通り。なんとEUR(ユーロ)/CNYは、2008年に33%を超える変動を記録しており、EUR/CNYはさらに変動が大きかったと言うのが事実です。
一方でUSD(米ドル)/CNYは、通常、年間で5%程度の変動しかしません。これは中国人民銀行の政策で、米ドルとの価値を大きくずらさない政策を実施していたことに起因します。ただし、中国は近年、人民元国際化政策を始動しており、そのため徐々に通貨規制を緩め海外との資本のやり取りを自由に行うようになった結果、2018年は10%を超える変動が起こりましたし、今後もますます変動が大きくなって行くことが予想されます。
為替リスクの大小まとめ
本日、例に出して説明した「為替リスクの計算に役立つ3つの変数」は以下の通りです。
- 「期間のリスク」
- 「金額のリスク」
- 「通貨のリスク」
いかがだったでしょうか?御社内で上記の考え方は共有されていますでしょうか?
筆者はこれまでに、日本で約400社、中国で約450社の企業と為替リスクに関するディスカッションを実施しました。ところが「為替リスクの分類」「為替リスクの計算に役立つ3つの変数」について、はっきりと社内で共有出来ているケースはごく稀でした。残念ながら対象がぼんやりとした状況では、為替リスクをヘッジする、為替リスクをコントロールすることは困難です。対象をはっきりさせる、つまり、まずは御社の為替リスクを分類し、為替リスクの変数に応じてリスクの大小を測ることが為替リスク管理において非常に重要となります。
今後、中国市場の対外開放・人民元国際化・米中貿易摩擦など、中国と他国とのお金の流れはさらに大きく、そして複雑になって行くことが予想されます。事が発生してから対応しては大きな損失に繋がることもありますので、もし100%の自信が持てない場合には、あらかじめ弊社にご相談を頂ければ幸いです。