為替リスク管理において日本企業が注意すべきこと

為替リスク管理において日本企業が注意すべきこと

この記事では、日本企業がどのように為替リスク管理を行っているのか、為替リスク管理にはどのようなやり方があるのか、日本企業が為替リスク管理を行う上でどのようなことに注意すれば良いのかについて解説します。

 

為替リスク管理とは

経済のグローバル化に伴い、日本企業にとっても為替リスク管理の重要性は増しています。

企業が国内で作った製品やサービスを海外に輸出する場合、または原材料や製品、サービスを海外から輸入する場合、外国為替相場の変動によって損失を被ることがあります。

為替リスクとは、為替相場の変動によって、貿易取引の決済時に自国建て通貨で換算すると損失が生じることを指すケースが一般的ですが、外貨建て資産の評価額下落など、実際に取引を行わない場合も潜在的なリスクを抱えることになります。また、企業の価格競争力低下など、長期的に見て経営に悪影響を及ぼすような状況も含まれます。

企業の為替リスク管理では、短期的な為替相場の変動に注意を向けると共に、中長期的な視点から為替変動リスクにさらされている資産や負債を把握し、採算性や競争力への影響も考慮して戦略を練る必要があります。

 

為替リスク管理を日本企業はどう行ってきたか

企業が為替変動リスク管理を行う際のポイントのひとつとして、通貨選択があります。

まず、日本の大企業では海外の現地法人と取引を行う同一企業内貿易の比率が高く、米国との直接取引だけでなく、アジア諸国との貿易においても貿易建値通貨(インボイス通貨)を米ドルにするのが主流で、その傾向は今も続いています。日本企業の場合、現地子会社で加工や生産を行い、米国や欧州に輸出するといういわゆる「三角貿易」が多かったことや、アジア諸国の多くが米ドルペッグ制を採用していたことなども理由です。

しかし、1990年代後半のアジア通貨危機以降、中央銀行の管理のもと、一定の範囲内で自国通貨を変動させる「管理変動相場制」に移行する国が増え、米ドル建てで貿易を行うリスクが高まりました。当初は通貨当局による為替取引規制が強いことや取引コストが高いことなどを理由に現地通貨をインボイス通貨として選択する日本企業はなかなか増えなかったのですが、近年では中国の人民元をはじめとするアジア現地通貨による取引が徐々に増加しています。

日本企業が現地通貨での取引を増やしている背景としては、原材料などの現地調達が増えたことや最終消費地としてのアジア市場の重要性が高まったことなどが挙げられます。調達から販売まで現地通貨で行った方が、為替変動リスクを避けやすいと判断する企業が増えているからです。

中小企業の場合は若干様相が異なり、取引を円建てにしたり、製品価格に転嫁したり原材料や部品の調達法を見直したりすることで、為替相場の変動によるコストアップを吸収する方法が採用されるケースが多いようです。

※(参照サイト)

中小企業庁 海外展開後の課題・リスク

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H24/H24/html/k221600.html

いずれにせよ、自国通貨が基軸通貨「ドル」である米国や、単一通貨「ユーロ」を選択することが多い欧州諸国の企業と違って、日本企業は為替リスク管理に敏感にならざるを得ないと言えるでしょう。

※(参照サイト)

PRI Discussion Paper Series 日本企業の貿易建値通貨選択 -税関データを集計した各国別インボイス通貨シェアからわかること-

https://www.mof.go.jp/pri/research/discussion_paper/ron348.pdf

独立行政法人 日本企業の為替リスク管理とインボイス通貨選択 平成30年度日本企業の海外現地法人アンケート調査結果概要

https://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/19j042.html

 

為替リスク管理でまずやるべきこと

特に急激な円安が進み、為替の変動幅が拡大している昨今、為替リスク管理の必要性を認識する日本企業は多くなっています。本コラムの別記事でも示していますが、為替リスク管理に関して社内ルールを定めている日本企業は増加傾向にあります。

まずは自社内で為替リスク管理のルールを作ることが重要です。弊社では無料で雛型を公開しておりますのでぜひご活用ください。

【専門家監修】為替リスク管理規定の作り方を大公開!雛形(見本)も無料プレゼント

為替リスク管理の手法について

為替リスク管理の手法としてはさまざまありますが、本記事ではそのうちの一部をご紹介します。

まず、「為替予約」があります。これは、将来の一定期間や期日を任意で定めて、決済を行う際の為替レートをあらかじめ決めておくやり方です。メリットとしてはあらかじめ定めたレートで取引できるので、期間内は為替変動リスクを避けて採算が確定できること。一方、原則として予約の取り消しができないので、仮に予約した水準より有利な実勢為替レートになっても、以前に確定したレートでしか取引することはできません。

また、外国通貨を将来の一定時期に、行使価格を決めて売買する権利を取引する「通貨オプション」という手法もあります。先物為替予約が「売買」の契約であるのに対し、通貨オプション取引は「権利」の取引である点が違いです。例えば自社に有利な為替水準になった時でも、先物為替予約があらかじめ定めた為替レートで取引するのに対し、通貨オプション取引ではその権利を放棄して、有利な水準で取引することが可能です。ただし、権利を購入するために支払った代金自体は戻ってきません。

また、インボイス通貨が外国通貨の場合、円建て決済を行わず、現地通貨で持ち続けるというのも為替リスクを回避する一つの手法です。

こういったことを組み合わせて対応していくことが重要です。

最終的には相場をどのように捉えるかというのが最も重要ではありますが、上記の手法を用いてリスクを軽減することも併せて検討しておきたいところです。

お困りのことがございましたらお気軽にご連絡ください。

トレジャリー・パートナーズへお問い合わせ