この記事は、「為替リスクヘッジという言葉は聞いたことはあるけど、説明はできない。」 「なんとなくイメージはわくけど、細かくは知らない。」人に向けての解説です。
記事の前半では、「為替リスクヘッジの意味」と「実際に為替リスクヘッジが必要になる場面」を解説します。 きっと、どんな場面で、為替リスクヘッジが必要になるのかが、イメージできるようになるでしょう。後半では、「場面ごとの、為替リスクヘッジの仕組みを、わかりやすい図解」で解説します。
この記事を最後まで読んでもらえたら、「為替リスクヘッジについて、他人に説明できるくらいしっかり理解できる」ようになるはずです。では早速、内容に入っていきます。
為替リスクヘッジとは?まずは意味をおさえましょう
「為替リスクヘッジ」を理解するためには、まずは「為替リスク」の意味をおさえる必要があります。
【為替リスクとは?】 外国為替相場の変動によって、損失が発生するリスクのこと。 |
を見ていきましょう。
企業に為替リスクヘッジが必要になる場面は5つ
企業にとって、為替リスクヘッジが必要になる場面は、5つあります。
- 貿易(輸入)
- 貿易(輸出)
- サービス
- 外貨建の債権債務(グループ会社、他企業との資金の貸し借り)
- 海外投資(海外子会社に対する投資から発生した未実現の為替差損益 )
この5つのどれかに該当する場合、為替リスクヘッジを行わないと、会計上で為替差損が発生してしまったり、実質的に損失を被る可能性があります。
⑴貿易(輸入)
外貨建て取引をおこなう場合に、為替リスクが生じます。 また、円貨建て取引でも、契約条件によっては為替リスクが発生します。
輸入は、例えば、家具で有名な株式会社ニトリホールディングスが挙げられます。
「第50期(自 2021年2月21日 至 2022年2月20日) 有価証券報告書」をみると、ベトナムなどアジアで製造して、日本に輸入して、国内で販売している様子がうかがえます。 おそらく、このベトナムへの支払いが外貨建てです。 その外貨と日本円の為替レートの変動により、最終的な支払い円貨額が変動するため、為替リスクが生じています。 これが、代表的な輸入企業の為替リスクといえます。
⑵貿易(輸出)
輸出の場合も、外貨建て取引をおこなう際に、為替リスクが生じます。 また、円貨建て取引でも、契約条件によっては為替リスクが発生します。
輸出は、例えば任天堂株式会社をイメージするよいです。 「第81期(自 2020年4月1日 至 2021年3月31日) の有価証券報告書」をみると、日本で作った製品の多くを海外に輸出しています。 全体の売上に占める海外販売比率は77%と非常に高い水準を記録しています。 この場合、海外からの販売代金回収において多くの外貨受取が発生しているはずです。 その外貨と日本円の為替レートの変動により、最終的な受取り円貨額が変動するため、為替リスクが生じています。
日本の輸出だと、他には精密機械が多いです。 例えば、高品質な医療機器や専用モニターなどが挙げられます。 昔は自動車産業も輸出が多かったのですが、最近は地産地消と言いますか、海外現地で作って、海外現地で販売するケースが多いです。
⑶サービス
例えば、外国企業からマーケティングやコンサルティングサービスを享受するためには、外貨で費用を負担するケースが多いです。 日本企業が、海外現地企業へマーケティング代金を毎月外貨で支払うと仮定します。 その場合、その外貨と日本円の為替レートの変動により、最終的な支払い円貨額が変動します。 そのため、為替リスクが生じます。
⑷外貨建ての債権債務(グループ会社、他企業との資金の貸借)
外貨建ての債権債務は、 「海外子会社などに資金を貸し付けたり、逆に海外子会社から資金を借り入れる場合」 です。
債権と債務、いわゆる資金の貸し借りをする場合にも、為替リスクヘッジが必要になります。
親会社と子会社間で行われる債権債務取引を「親子ローン」や、「子親ローン」と呼びます。
債権債務取引は一般に貸出期間が長く、かつ金額も大きいです。 そのため、決済までの期間が短く、金額が小さい貿易取引よりも、大きな為替リスクを抱えるので、注意が必要です。
例えば、海外進出時に、現地に子会社を設立した場合には、実績がありません。 ですので、現地での借入(資金調達)が難しく、運転資金を国内本社が借り入れるケースがあります。
このケースでは、日本で「日本円で借り入れる場合」と「現地通貨で借り入れる場合」があり、日本円で借り入れる場合に為替リスクが発生します。 円安が進めば進むほど現地子会社へ投資する資金が実質的に目減りしていきますので注意が必要です。 すくなくともこの時点で、ヘッジの可否を検討するとよいでしょう。 なお会計上は本社の円資金を外貨へと転換した時点から、為替差損益として認識されます。
⑸海外投資(海外子会社に対する投資から発生する為替差損益 )
海外に外貨で投資する資本と、その投資を引き上げる際の資本の金額を仮に同一金額とします。 この場合、当初に外貨に転じた為替レートと、将来に外貨から日本円へと転換する為替レートには差があります。 したがって、為替リスクに晒されています。 また海外での営業活動が軌道に乗り、利益剰余金が増えてくれば資本が厚くなるので、それもまた新たな為替リスクとなります。
例えば、アルゼンチンやブラジルの現地法人で資本に対して1年間で20%の利益が出たとしましょう。 アルゼンチンペソやブラジルレアルが1年間で30%安になってしまった場合には、日本本社からすれば損失が発生していることになります。 これが海外投資の為替リスクです。 なお会計上は、海外子会社の外貨建て財務諸表を円換算する必要があります。 その際には、資産および負債は決算日レートで、資本は発生時のレートで別々に計上され、貸借対照表が上手くバランスしません。 これを調整する項目が「為替換算調整勘定」と呼ばれ、連結決算の貸借対照表に記載されています。
個人に為替リスクヘッジが必要になる場面
「企業にとって為替リスクヘッジが必要になる5つの場面」を紹介してきましたが、 個人でも、必要になる場面があります。
個人の場合…
外貨建の資産(株、投資信託、通貨、不動産、債券など)を持っている場合に、為替リスクヘッジをするかどうかを考える方が多いです。 個人の方の「海外資産への投資」における「為替リスクヘッジ」について知りたい方は、以下の記事で詳しく解説しています。
▶︎海外資産(投信信託・株・債券)における為替ヘッジとは?専門家が仕組みをわかりやすく解説!
について説明してきました。 具体的に必要になる場面が想像できたところで、次は
- 為替リスクヘッジには、どんな方法があるのか
- 具体的な為替リスクヘッジの仕組み
を解説していきます。
2つの為替リスクヘッジ手法
為替リスクヘッジには、2つの手法があります。
- ファイナンシャルヘッジ
- オペレーショナルヘッジ
この両方を併用するのが一般的です。
⑴ファイナンシャルヘッジ
簡単に言うと、 「為替予約などの金融商品を使って、為替相場変動のリスクをヘッジする方法」 になります。
この方法のメリットは、ヘッジ時点での為替レートをもとに、将来の為替レートを決定し、損益を固められること。
デメリットは、将来、仮に企業にとって有利なレートになっていたとしても、ヘッジ時点のレートで取引しなければならないことです。
▶︎以下で詳しく解説しています
⑵オペレーショナルヘッジ
簡単に言うと、 「金融商品以外でリスクをヘッジする方法」 です。
代表的なものには、為替マリーと呼ばれるものがあります。
これはドルの支払いと受け取りを、同程度の金額に調整していく方法です。
他には、契約時に相手方に為替リスクを負担してもらう契約にする方法もあります。
また外貨の支払いおよび受取時期を早めたり遅らせたりすることで、リスクを抑えるリーズ&ラグスと呼ばれる方法があります。
また、生産拠点を海外に移す…などの手段を講じる場合もあります。
▶︎以下でオペレーショナルヘッジについて詳しく解説しています
【図解】具体的な為替リスクヘッジの仕組みをわかりやすく解説!
「企業に為替リスクヘッジが必要になる5つの場面」を紹介しましたが、 「どのように為替リスクをヘッジできるのか」 その仕組みを図解で、わかりやすく解説します。
⑴貿易(輸入)の場合
「どのように為替リスクをヘッジできるのか」を解説する前に、 為替リスクがどのような流れで発生するのか、例をあげてご紹介します。 「海外企業から100万ドル相当の家具を仕入れる(輸入する)契約を締結する」ケースを想定してみます。
では上の例のような、貿易(輸入)に伴う外貨支払いにおいて発生する「為替リスク」を、どのようにヘッジするのでしょうか 貿易(輸入)に伴う外貨支払いでは、輸入契約締結時に為替予約などでファイナンシャルヘッジを行う場合があります。 また金額の大小や、期間の長短、通貨の変動率などを考慮し、ヘッジをしないという判断をすることもあります。
さらに為替リスクを取引先が負担するよう取り決め、契約書に明記する場合もあります。
⑵貿易(輸出)の場合
「海外企業へ100万ドル相当の精密機械を輸出する契約を締結」するケースを想定してみます。
上の例のような、貿易(輸出)取引において発生する「為替リスク」を、ヘッジする場合・・・ 輸出契約締結と同時に為替予約などでファイナンシャルヘッジを行う場合があります。 また金額の大小や、期間の長短、通貨の変動率などを考慮し、ヘッジをしないという判断をすることもあります。
さらに為替リスクを取引先が負担するよう取り決め、契約書に明記する場合もあります。
なお、サービス(海外への代金支払い)に伴う外貨支払いにおいて発生する「為替リスク」は以下のようにヘッジします。 業務委託契約締結時に、為替予約などでファイナンシャルヘッジを行う。
金額の大小や、期間の長短、通貨の変動率などを考慮し、ヘッジをしないという判断をすることもある。 また為替リスクを取引先に負担してもらうよう契約書に明記する場合もあります。
⑷外貨建ての債権債務(グループ会社、他企業との資金の貸し借り)
最も一般的なのは、親会社から子会社への米ドル建ての親子ローンです。 「日本本社と海外子会社が、期間1年、100万ドルの親子ローン契約を締結する」ケースを想定してみます。
外貨建ての債権債務に伴い発生する「為替リスク」は本社と子会社のいずれかがファイナンシャルヘッジを検討するのが一般的です。 ほとんどのケースにおいては親会社の方が資金や財務管理体制が充実しているため本社で検討を進めます。 検討の結果、ファイナンシャルヘッジをする、またはしないと分かれます。 全般に言えることですが、ファイナンシャルヘッジにかかるコストも含めて検討し、判断するのが一般的です。
親子ローンは金額が大きく、期間が長いため非常に大きな為替リスクとなります。
留意点の1つには子会社の事業が軌道に乗るまでには時間が掛かり、そのため返済時期が読めないことが挙げられます。 返済時期が定まらないゆえにヘッジは実行しづらいです。
留意点の2つ目はヘッジコストが大きくなることです。 ファイナンシャルヘッジのコストは、主に2通貨間の金利差と、期間で決まります。 しかし、円の金利が低くドルの金利が高いためヘッジコストは高いですし、また期間が長いためことさらにヘッジコストが掛かります。 ▶︎ヘッジコストの決定要因について詳しく知りたい方は下の記事にお進みください。 詳しく解説しています。
⑸海外投資
「日本本社と海外子会社が、100万ドルの資本契約を締結する」ケースを想定してみます。
海外投資に関する為替リスクヘッジは、日本ではあまり進んでいません。
一部に、専門のトレジャラーを抱える企業のみが行っているイメージです。
問題点の1つには、海外事業が存続する限りにおいてヘッジコストが掛かり続けること、また円が低金利で外国通貨が高金利であることから、ヘッジコストが大きいことが主因です。
銀行による為替リスクヘッジの問題
ここまで、「為替リスクヘッジの方法」と「為替リスクヘッジの仕組み」を解説してきました。 為替リスクヘッジを検討される場合には、「銀行に相談すれば良いのでは?」とお考えの方も多いです。 しかし、そこには大きなデメリットがあります。
銀行が提案するのは、基本的にファイナンシャルヘッジによる方法が中心になります。
なぜならば、銀行にとってオペレーショナルヘッジを提案するメリットが無いからです。 また銀行と顧客の間には為替予約など金融商品の販売において利益相反関係があり、銀行収益確保のため、過度に銀行の利益を金融商品の価格に内包させてレート提示する可能性があります。 このように、そもそも顧客と銀行の間には構造的な問題があることに十分留意する必要があります。
詳しくは、下記の記事で解説していますので、為替リスクに向き合う必要が有る方は、ぜひ読んでいただきたい内容です。 ▶︎銀行による為替リスクヘッジ提案の問題点について詳しく解説しています(作成までお待ちください)
また、監査法人なども為替リスクヘッジのアドバイスを行っています。
そちらは反対に、ファイナンシャルヘッジのノウハウを持っていないという、問題があります。
私は、企業にとって、2つのヘッジ方法を熟知していて、かつ適切に組み合わせて提案できる第三者がいない事に、問題意識を持っています。
偏りのない適切な為替リスク管理を行いたい方は、ぜひこちらの記事を参考にしてみてください。 ▶︎戸田がご提案する、適切な為替リスクヘッジについて(作成までお待ちください)